ティアラ[HANA AKARI]vol.2
AIとデザイン
HANA AKARI[花明かり]ティアラ制作の様子をお伝えするブログのvol.2をご覧いただきありがとうございます。
最終的に桜が並ぶ格好になるティアラですが、デザインの初期の段階ではまだ桜のモチーフは出てきていません。
和ろうそくの光のみで美しく見えるには…といった使われる状況のことや、どんな方々が目にするかということを考えていましたが打合せでもぱっとした反応を得られず、このままではいけないと自分の型を破るようなデザインを実践することになりました。
少し堅苦しいお話になりますが、「デザイン」というものについて考えてみたいと思います。
ジャンルに関わらず、あらゆるデザインは時代によって大きく価値観も形態も変化するものですが、その神髄に流れる力強さは普遍的なものです。
私は伝統的なものに魅力を感じるものの、現代風で合理的なことを選択することが多い性格です。
しかし道具が最先端ならデザインもそうなるわけではありません。
古典的な手法で進める手間や時間より、そこから開発された技術を利用した方が良い結果を得られるとわかる場合に限って、その道を選びます。
技術が無ければ不可能なデザインもありますし、デザインの実現だけを考えて制作に入ると、深みのない完成度しか手に入りません。
ジュエリーの技術は道具の革新や機械化によって大きく時間短縮が可能になりました。
それだけでなく、美しさや精度も求めることができるようになりましたが、一方で人間の技術力やデザイン力も大きく問われていると思います。
昨今の生成AIがどこまでデザインの領域に立ち入るのか時間の問題と言われる場面もありますが、均一で完璧なAIに対抗するのは人間の「揺らぎ」ではないかと思っています。
美しさとは何か、ものの良さとは何か、という問いに決まった答えはありません。順位や点数もつけられないものです。
多くの選択肢があってよく、だからこそ多くのアーティストやデザイナー、作り手が必要になります。
機械化に反対ではないものの、それを操る人間の育成はどの時代においても不可欠な課題だと感じています。
ティアラのデザイン
さて、ティアラの制作のお話に戻ります。
足繁く通った南蔵院で大日如来や結縁灌頂のお話を伺って、メインモチーフに桜を使うことを決めてからはとても速く作業が進みました。
私たち日本人に馴染み深いリアルな桜と日本古来の文様を組み合わせたデザインで、光とそれを引き立てる影がテーマです。
空間の空き方やモチーフの数と大きさを確認するため、最初は紙で、原型ができてからは真鍮やシルバー素材で何点かモックアップを作りました。
実際に頭にのせてバランスを見たり、高さや奥行きを確かめたりします。
よく、デザイナーは「絵を描く人」と言われますが、AIMの場合は「絵も描く人」。
描いた絵を過信せず、より良い完成に近づけることはデザイナーの義務でもあります。
石留め~ロウ付け
パーツがそろったら、ロウ付けの前に石を留める作業です。
通常リングなどは、石に火があたると割れ・曇りの原因になるためご法度ですが、ロウ付けの箇所がパヴェセッティングの箇所から距離が取れるため、先に石を留める部分もありました。
私が石留めしたパーツを職人が順番にロウ付けしていき、だんだんと出来上がりに近づいていくティアラでしたが、最終段階でもモチーフの配置について改めて何度も確認を行いました。
途中、アトリエで石留めの講座を開き、お客様や今回のクライアントをお呼びして石留めの種類や今回の工程をレクチャーする機会を設けました。
職人のマイクロスコープで石留めの現場を初めてご覧になったお客様には大変興味を持っていただいた様子で、私たちも黙々と作業に打ち込んでいる中でしたので、とても有意義な時間になりました。
お忙しい中お越しいただいた皆様、ありがとうございました。
左の画像は、揺れる花びらのパーツをどこに着けるか検討しているところです。
空間のすべてをモチーフで埋めず、空気の流れを感じるようなデザインになるように心掛けました。
レクチャーのときはバラバラだったモチーフも、こうして組み合わさると力強く見えます。
このティアラには、満開の桜に足りないものがあるとしたら、と葉をイメージした専用の緑色のケースを仕立てました。
納品の日はちょうど満開の季節。
雨が降っていましたが、私たちをねぎらってくれているようにも思えました。
大きな仕事は完成という終わりを迎えましたが、ティアラがこれからもますます多くの方々の目に触れ、豊かな文化に心を満たすその一部分になれたら、まさに制作者冥利に尽きます。
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